東京高等裁判所 昭和40年(行ケ)88号 判決
事実及び理由
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が、原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告が本件審決を取り消すべき事由として主張するところは、すべて理由がないものというほかはない。以下その理由を分説する。
(一) 原告は、本件審決は、本願考案と引用例記載のものとの相違点の一として原告の主張するサーモスタツトの動作の仕方に関し、引用例のサーモスタツトの動作点を適当に設定すれば、これを炊飯器としても使用できるものと認められるから、両者の構造及び作用効果に相違するところはないと判断しているが、この判断は上記の相違点が本願考案が炊飯器であることに基づくものであり、引用例のものと本質的に異なることによることを看過したものである旨主張する。しかして、成立に争いのない甲第一号証(本願考案の実用新案登録出願変更前の特許願書)、第四号証(本願考案の実用新案登録願書)、第六号証(本願の実用新案公報)及び弁論の全趣旨を総合すれば、本願考案は、それが炊飯器である性質上、一旦通電を遮断したのちは、これを再開することのないようにサーモスタツトを動作せしめるものであり、したがつて、一旦サーモスタツトが動作し通電を遮断すれば、以後は、電源を切るなどの手数を要することなく炊飯の目的を達しうるものと認められ、他方、成立に争いのない甲第十三号証の二(引用例)によれば、引用例のものにおいては、調理器(Cooking vessel)である性質上、サーモスタツトの作動の仕方が本願考案と異なり、したがつて、引用例のものは、炊飯のため用いる場合には、サーモスタツトを所望の温度に設定し、該温度において通電を遮断しても、以後の加熱を防止するため電源を切るなどの手数を要するものであること(このことは、被告も自認するところである。)が認められるから、この点において、本願考案と引用例とはその用いるサーモスタツトの作用効果を異にするものということができるけれども、前掲甲第一号証及び成立に争いのない甲第七号証の二(昭和五年実用新案出願公告第七、二八四号公報)を総合すれば、自動炊飯器において、本願考案における前記のようなサーモスタツトの作動の仕方は、本願出願当時すでに周知の技術に属するものと認められ、この事実に引用例が調理器で一般の煮炊に用いられるものであり(この点は当事者間に争いがない。)、炊飯にも使用可能と認められ、本願考案と同一ないしきわめて近接した技術分野に属するものであることを総合すると、炊飯のために、引用例のサーモスタツトの作動の仕方を本願考案におけるそれのようにすることは単なる設計変更ないし当業者が容易に実施しうべき程度のものというべく、したがつて、本願考案と引用例のサーモスタツトの作動の仕方に関する前段認定の差異は格別のものとはいい難く(ことに、前掲甲第一、第四号証及び第六号証によると、本願考案の目的は、常にサーモスタツトを炊飯容器底部に直接に密接させることにより炊飯容器底面と電熱盤の接触が不良な場合においても、サーモスタツトが適確に作動するようにしたことにあるのであつて、引用例のサーモスタツトの構成がこの点において本願考案と同一であることは、原告の自認するところである。)、本件審決がこの点に論及しなかつたからといつて、これをもつて、本件審決に取り消すべき違法があるものとすることはできない。
(二) 原告は、加熱用熱源として、本願考案は電熱盤を用いるに対し、引用例のものは電熱リングを用い、その構成及び作用効果を異にするにかかわらず、本件審決が本願考案の電熱盤に設けられた透孔と引用例の電熱リングの中央空間部を同一視したことは誤りである旨主張するが、前示本願考案の要旨並びに前掲甲第一、第四号証、第六号証及び第十三号証の二によると、本願考案においては、電熱盤に設けられる透孔の大小について格別の限定はなく、この点引用例のものと構成及び作用効果において特段の差異はないものと認められ、この認定を左右するに足る証拠はないから、原告のこの点に関する主張は採用しうる限りでない。
(三) 原告は、本件審決は本願考案が炊飯器であるに対し引用例のものが調理器である点において、両者、その使用目的及び作用を本質的に異にするにかかわらず、この点を混同して誤つた結論を導いた旨主張するが、叙上認定したところから明らかなとおり、引用例のものも本願考案もともに煮炊器であり、両者同一ないしきわめて近接した技術分野に属するものであるから、引用例の構成を本願考案に転用することに格別の困難性があるものとはとうてい認めえないところであり、その作用においても特段の差異がないこと前叙のとおりであるから、原告のこの点の主張も採用することはできない。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却する。
〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。
ヒーターを内蔵した電熱盤に炊飯容器を載置し、炊飯器の煮炊終了時に於ける温度急上昇によりサーモスタツトを作動せしめてヒーターの通電を断路せしめる型式の炊飯器に於て、電熱盤4の下面に弾性支持体11にて支持したサーモスタツト10を設け、これを電熱盤4の透孔を通じ炊飯容器7に直接に密接して成る電気自動炊飯器の構造。
〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。
<省略>